大判例

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東京高等裁判所 事件番号不詳〔2〕 判決

主文

本件上告は孰れも之を棄却する。

理由

弁護人福田力之助、森長英三郎、青柳盛雄、小沢茂四名の上告趣意、弁護人高橋正義の上告趣旨、弁護人為成養之助の上告趣意は孰れも末尾添付の同人等名義の各上告趣意書と題する書面に記載の通りである。

以下之に対し順次当裁判所の判断を表示する。

弁護人福田力之助、森長英三郎、青柳盛雄、小沢茂の上告趣意第一点に付て、

原判示冒頭から示威行進に参加した数百名の一団が遍照院に押掛け薬師堂を包囲した迄の記載は被告人等が判示暴行を為すに至る迄の経緯を敍説したもので本件犯罪の構成要件に関する事実ではない。元来罪となるべき事実に属しないかゝる事柄に付ては証拠説明を要しないのであるから右の点に付原判決の証拠説示に不備がありとする論旨は理由がない。

又原判決が犯罪構成要件に関して挙示した証拠に付ては之を記録と照合して見ても被告人又は被害者等の供述の趣旨を歪曲した廉はないしその挙示の証拠に依れば判示暴行又は傷害の事実を証明するに十分であるから証拠説明に不備はない。

凡そ団体交渉は平穏且合法的に行はるべきであり相手方がこちらの主張を容れないからと云ふて暴行沙汰に及ぶが如きは常軌を逸した行動でありその目的の如何を問はずかゝる行為は労働組合法第一条第二項に所謂「正当なる」行為と云ふを得ないことは勿論である。原判決は右と同一の見解に依り判示情況の下に於ける被告人の行為は労働組合法第一条第二項の適用なしと説示して弁護人等の主張を排したのであるから所論の如き違法はない。

論旨は理由がない。

第二点に付て、

日本国憲法(以下憲法と略称する)第二十八条は勤労者の団結権団体交渉権を保障しているが之れとともに同法第十三条には個人の生命自由に対する権利を保障している。而してこの両条の基本的人権は相互に他を犯さない関係に在る。それ故労動者に団結権、団体交渉権等が認められたからとて之れにより、生命、自由に対する他人の権利を濫に犯す如き行動迄も認容されたものと為すのは聊か早計である。団体行動として法の下に認容せらるべき行為たるにはそこに自らある限界が設けらるべきである。即ちその団体行動が社会通念に照し正当性を首肯し得るものでなければならぬと思ふ。それ故仮令議争の目的が正当であつても之を遂行するに方り不法に相手方に暴力を加へたり或は脅迫を用ひて自由を拘束することは憲法第十三条が保障する相手方の基本的人権を侵害することになり社会通念の上からしても之を正当視するを得ないところであつて前記限界を超えた違法行為と謂ふべきである。

原判決の確定した事実は被告等の属する東洋時計株式会社上尾工場従業員組合に反対する労働者の一部が同会社内に再建同志会なる第二組合を結成し同志獲得に努め出したので被告人等従業組合員等はこれを説得して解散させようとして数百名で示威行進を行つたが途上、再建同志会の事務所たる遍照院に殺到して之を包囲し同会員梅村光太郎外十数名を殴打し、蹴飛し又は引摺倒し或は貨物自動車内に投込み同人等を会社工場内女子食堂に拉致し争議団大衆の面前で同人等に対し夜を徹して順次詰問して帰宅を許さず其の間暴行に因つて判示傷害を加へたと云ふに在る敍上の事実に徴すると右行動は一種の暴動に均しく吾人の社会通念に照し団体交渉権に基く行動として到底その妥当性を認容することが出来ない。これは明かに前記限界を踏外した違法行為であると謂はざるを得ない。

暴力行為等処罰に関する法律は所論のように封建的暴力団のみを取締ることを目的とするものではなく仮令労働組合の団体交渉権に基く行動であつても右の如く法の許す限界を乗越えた行為に対しても尚之を科罰の対象とするものであり、同法は此の意味に於て寧しろ憲法第十三条の基本的人権の裏付とはなるけれどもこれが為同法第二十八条が保障する勤労者の団結権、団体交渉権に基く「正当なる行為」を毫も抑圧するものではない。従つて被告人等の行為に対し判示法条を適用したことは憲法に違反しない。

論旨は理由がない。

弁護人高橋正義上告趣意書

第一点について、

労働組合法第一条第二項は同条第一項に掲ぐる目的達成の為為された「正当の行為」に付刑法第三十五条を適用するのであつて正当でない行為に付てまで之を適用するとの趣旨でないことは法文上洵に明瞭である。然らば如何なる行為が正当であるか、換言すれば行為の正当性を決する標準如何と云へばそれは先に(弁護人福田力之助外三名の論旨第二点に)説明した如く吾人の社会通念に照し正当性を認容し得るものであるか否かに依つて定むべきだと考へる。

原判決の認定した事実に依れば先に記載したように被告人等従業組合員が団体交渉の過程に於て再建同志会員等に対し不法に暴力を加へ或は之を拉致してその自由を拘束したと云ふのであるからこれは正常な争議行為の範疇を逸脱したものであり社会通念上許すべからざる行為である。かかる行為に対しては刑法第三十五条を適用すべき限りでない。原判決が暴力行為等処罰に関する法律第一条を以て問擬したのは相当で決して正当なる団体交渉を剥奪したものでない。

論旨は理由がない。

第二点について、

暴力行為等処罰に関する法律は憲法第二十八条が保障する勤労者の団結権、団体交渉権、及之に基く正当なる行動を毫も抑制するものでないことは既に説明したところである。(右第一点及弁護人福田力之助外三名の論旨第二点参照)従つて憲法に抵触しないし又同法の施行によつて当然失効したものと云ふを得ない。

論旨は理由がない。

第三点に付て、

原判決は所論第一審検証調書を断罪の資料に供していないのであるから該検証の違法を論難するのは当らない。又証拠調の限度は事実審が合理性に背かぬ限り自由に裁量し得るところであるから弁護人申請の証人中その二、三を採用し他を却下したからと云つて採証違法呼ばりをするのは不当である。

論旨は理由がない。

弁護人為成養之助上告趣意書

第一点について、

暴力行為等処罰に関する法律は労働者の団結権団体交渉権その他の団体行動にして正当なる行為を禁止又は処罰するものでないことは先に述べたところであり(弁護人福田力之助外三名論旨第二点参照)又憲法の附与した右以外の其本的人権を否定し又は制限するが如き規定を存しないこと其の法文上明かである。故に暴力行為等処罰に関する法律は憲法の条規に抵触しないから憲法施行に因つて当然失効したと云ふを得ない。

論旨は理由がない。

第二点及第三点に付て、

原判決が挙示する原審第四回公判調書中の証人梅村光太郎の供述記載同人に対する司法警察官の供述記載等に依れば被告人日向の傷害、被告人藤田の暴行の各事実を又原審第五回公判調書中の証人、金井深の供述記載及同人に対する司法警察官の聴取書中の供述記載等に依れば被告人鈴木の暴行の事実を夫々証明するに十分でありその採証に何等違法の点を認め得ない所論は畢竟事実審の専権に属する証拠の価値判断を誹議するに帰し失当である。

論旨は理由がない。

第四点について、

原審が証拠に引用した原審第六回公判調書中の証人小暮淳一の供述記載を同調書に就て調べて見ると其証言は同証人が判示薬師堂から被告人等が乗つて来た貨物自動車の停つて居た方向へ反対派(従業員組合)の群衆から揉抜かれて行く際反対派の者から殴打されたそして右加害者が誰々であつたかはその際自分は確認出来なかつた然し右暴行の目撃者であつた小川隆司から後日被告人加藤が右加害者の一員であつたことを教へられて判つたと云ふのである。それで右証言中同証人が暴行を受けたこと自体に関する部分は同証人の体験を語るものであり、加害者が被告人加藤である、その点だけは所論の如く伝聞証言に属するものであると謂へる。然し旧刑事訴訟法下に於ては伝聞証言も仍ほ証拠力があることは夙に大審院判例の示すところであり旧刑事訴訟法の適用を受ける本件に於ては右伝聞証言を採ることは違法でない。

又証人の供述を録取した公判調書は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律(以下応急措置法と略称する)第十二条第一項の規定する書類中には包含されないものであるから(最高裁判所昭和二三年(れ)第七一号判例)原審が右第六回公判調書中の証人小暮淳一の供述記載を証拠に引用した点も違法でない。

原判決は小暮淳一に対する司法警察官検事の各聴取書中の供述記載を断罪の資料に供しているが原判決の基となつた第七回公判(第七回公判で従来の審理が更新され爾後第十一回迄公判は続いている)以後に於て被告人又は弁護人から証人小暮淳一の申請が新に為されていないから右各聴取書を罪証に供した点も応急措置法第十二条第一項に違反しない。

原審は弁護人の為した証人小川隆司の申請を却下し前記小暮淳一の各供述記載を採つて被告人加藤の暴行事実を認定したことは所論の通りである。而して憲法第三十七条第二項後段には被告人は公費で自己の為に強制手続に依り証人を求ある権利を有する旨規定してあるがこれは被告人が申請した証人は無制限に喚問しなければならないとの趣旨ではない。申請の証人を取調べるか否かは証人に依つて立証せんとする事柄と被告事件との関係や又他の証拠等をも勘考し条理に反しない限りに於て裁判所が自由裁量に依り決定することを得るものと解すべきである。弁護人申請の証人小川隆司は暴行の目撃者であるから同人を取調べることは事実関係をより明瞭ならしむる上に於て望ましいことではあるが記録を精査して見ると原審が既に取調べた他の数々の証拠殊に原判決引用の証拠等からして被告人加藤が暴行加害者であることは十分認められ従つてこの上更に小川隆司を、取調べなくとも本件を断ずるに足ると思はれる情況に在ることが窺はれる。原審はこの見地からして弁護人の右証人申請を却下したものと考へられる。然も右証拠の取捨に関し条理に反するものありとは為し難い。所論は畢竟原審の職権に基いて適法に裁定した証拠調の限度を論難するに帰し失当である。論旨は理由がない。

第五点について、

この論旨の失当であることは弁護人福田力之助外三名の論旨第一点及第二点の説明に依つて自ら了解し得ると思ふ。右に関する説明を参照され度い。

右の次第であるから旧刑事訴訟法第四百四十六条に依つて主文の通り判決する。

(昭和二四年二月一八日東京高等裁判所第一一刑事部)

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